ストーリーのある庭、東福寺・龍吟庵


毎年、観光キャンペーンとして実施されている、非公開文化財を特別に公開する「京の冬の旅」。

今年は、緊急事態宣言があり、一時休止され、期間が延長され、実施されました。

わたしが今回どうしても行きたかったのが、「東福寺龍吟庵(りょうぎんあん)」。

 

ここには、重森三玲作庭の3つの庭があること、そして、龍吟庵は国宝なので、重森三玲好きとしては一度見てみたかったのです。

 

ちなみに、重森三玲の本についてのコラムはこちらを。

伝統×革新の体現者、重森三玲の語る「庭を見る心得」
読んでいると、実際にその庭を観に行きたくなる、そして、庭の永遠の中にある一瞬の美しさ、そんな瞬間に出会いたいと思えてくる、重森三玲の本を紹介しています。

 

3月末までの特別公開になんとか間に合い、行くことができました。

龍吟庵は、東福寺方丈(重森三玲の市松模様の庭があるところ)拝観受付の庫裏の建物の右の細い道を進み、裏手にいったところにあります。

その時渡るのが、東福寺にある3つの橋のうち、最も古く重要文化財の「偃月橋」。

この橋については、こちらのコラムで。

桜もいいけど、青もみじもいいですよ
桜が咲くころ、もみじもちいさな花をつけています。桜がなく、もみじに包まれた東福寺ではもみじが芽吹きはじめています。東福寺にある三名橋のひとつである隠れたスポットも紹介しています。

龍吟庵とは?

あまり知られていない龍吟庵。訪れる人もまばらで、とても静かです。

この龍吟庵は、東福寺三世住持・無関普門(南禅寺を開山)の住居跡で、国宝指定をうけているのは方丈です。

この方丈は、室町時代初期のもので、日本最古の方丈建築です。

ちょうど、寝殿造から書院造への移行期にあたり、

外は、御所にみられる半蔀(はじとみ)と呼ばれる、上半分を外側へつ り上げるようにあける戸になっており、貴族や公家の館のような優美な寝殿造です。

一方、内は、ふすまで部屋を仕切り、畳を敷く書院造。

両方が合わさった、なかなか見ることのない様式の建物です。

 

重森三玲作の3つの庭のはじまりは「無」

まず、最初が「無の庭」。

禅らしいシンプルな白砂だけの庭。

あえて、ここには石組をせず、手を入れずそのままにしたと、重森三玲庭園美術館でうかがいました。

ただ、それで終わらないのが三玲らしいところ。

上の写真の奥に見える生垣はアップにすると、

生垣は、斬新で、なにもない中で逆に印象的です。

これは次の庭への布石、稲妻を表しているそうです。

 

稲妻が光り、あらわれるのは「龍」

そして、次の庭が「龍の庭」。

龍吟庵の名前にちなみ、龍が海の中から昇天する姿を表現しています。

 

1枚の写真では入りきらず、北側からと南側から撮影した写真を並べてみました。

阿波(徳島)産の石で龍を表し、庭の中央にある3つのとがった石が顔と角があり、反時計回りに体があり、いちばん左(南)がしっぽだそうです。

 

白砂は海を、黒砂は黒雲を表し、その境にはモルタル(コンクリート)を使っています。

そして、白砂・黒砂とも砂紋(砂の模様)で動きを出しています。

モルタルは、輪郭となり白と黒がくっきりと分かれる効果があり、

実用的にも、砂紋を描く時、この上にのってかけるため、手入れしやすいというメリットもあるそうです。

 

そして、龍の庭の生垣は、雷を表しています。そして、今は、もみじの小さい花が咲いています。

さきほどの無の庭は稲妻の「光」、こちら龍の庭は雷の「音」で、対照的、

稲妻が光り、雷がなり、龍があらわれる場面を演出しているようです。

衝撃の赤砂の庭

最後が、「不離の庭」。

こちらは無関普門の幼少期の話が表現されています。

無関普門は、天然痘にかかり、当時は治らない病気ということで山に捨てられます。

山にはたくさんの狼がいて、襲ってきますが、二頭の犬が離れず、守り続けます。

3日後、山に見に行った親は、犬に守られ生きていたため、特別な力を持つと思い連れ帰り、看病し、病も治ったそうです。

 

山の中で、細長い石で表した無関普門を、その両側の丸みを帯びた白と黒の犬が守り、その両側に入るとがった3つずつの石の狼から守っている様子を表現しています。

そこで、「離れず=不離」の庭と名付けられています。

 

赤砂は、鞍馬の石を砕いたもので、現在ではもう取れないものだそうです。

今まで白砂の枯山水しか見たことがなかったので、赤砂は衝撃的でした。

セピアカラーにしたかったからとか、無関普門が生まれたところが赤石の山だったからだとか、いろいろ理由はありそうですが、

どこか挑戦的で、驚きがある三玲らしさを感じます。

 

これら3つの庭は、1964年、重森三玲69才の晩年の作品です。

ちなみに、東福寺本坊庭園(方丈)の有名な市松模様の庭は、デビュー作で44才の時のもの。

25年後に作庭したこの龍吟庵の庭は、さまざまな技術・表現方法を駆使して、成熟した表現力を感じます。

3つの庭がまったく印象が異なる中、ストーリーがあり、展開が変わっていく楽しさがあり、おもしろくて、何周もしました。

ずっと眺めていたくなるお庭です。

 

次回の公開は未定ですが、紅葉の時期に公開されることが多いようですので、ぜひ一度、訪れてみてください。

 

同じ重森三玲のお庭がある、東福寺光明院についてはこちらのコラムを。

光明院は通期で公開されています。

虹の苔寺でゆるりと~東福寺光明院~
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